2012年4月19日木曜日

Dr.Carrasco: 2008-08-10


(毎日新聞社 2008年8月8日)

「20世紀の医学的奇跡だ」。
国際移植学会は、全会一致で採択したイスタンブール宣言で、
助からなかった命を救う臓器移植の意義をそう表現した。

同時に、途上国を中心に臓器売買が行われたり、
健康な人から臓器が提供される生体臓器移植の人道的な課題を
重大な問題と警告。
移植を取り巻く世界と日本の現状を報告。

イスタンブールで開かれた国際移植学会には、
日本を含む78カ国から移植の専門家158人が参加。
議長を務めた米ハーバード大のフランシス・デルモニコフ教授は、
「宣言が採択されるまで、席を立たないでほしい」。

議論が集中したのは、生体からのドナー(臓器提供者)の扱い。
宣言案には当初、生体 ドナーを「hero(英雄)」と見なすべき、と記されていた。
しかし、会議に参加した小林英司・自治医科大教授は、
「日本では生体ドナーは、決してヒーローではない。
heroic(高潔な)と修正してほしい」。

日本の生体移植では、主に家族や兄弟姉妹から提供され、
「英雄」というにはそぐわないほか、途上国で行われる臓器売買への批判も。
各国は小林教授の提案に賛同し、文言が修正。


便秘のためのフードメニュー

全米臓器配分ネットワークによると、臓器移植の最初の成功例は
米国で1954年に実施された腎臓移植。
日本では、97年の臓器移植法施行後、臓器の移植手術が
計1万8196件行われ、脳死移植は365件。

移植待機患者はどこの国でも多いが、
生体移植(腎臓、肝臓)への依存度は、フランスが1割未満、
米国が約4割なのに対し、日本は腎臓で8割以上、肝臓では99%超。
国際移植学会が生体移植を問題視するのは、
健康な人の体にメスを入れるから。

移植を受けるため、海外に行く「移植ツーリズム」が後を絶たず、
その先には臓器売買も。
移植医の間で、生体ドナー� ��保護する取り組みを強化しないと、
社会から移植への信頼が失われるとの懸念が強まり、
迎えたのが今回の国際学会。

危機感の表れを象徴するように、議論中に席を立つ人はなく、
全会一致の宣言採択で閉幕。

宣言では、生体ドナーを保護するため、ドナーの意思を反映した
選定方法や休業補償など、総合的な保障制度作りが盛り込まれた。
生体ドナーを、「もう一人の患者」と位置づけ、
各国が臓器提供の自給自足へ努力することを原則。


速い減量の食事療法は計画

フランスが、04年の生命倫理法改正で、
生体ドナーの術前の検診と術後の後遺症の有無、重症度などを
記録する制度を導入したのを受け、
生体移植のリスクを明らかにするため、今後、国際的に統一した基準で
生体ドナーのデータベース化を協議。

小林教授は、「国によって、死や臓器提供に対する認識の違いがあるが、
立場が異なる中、誰もが納得するものができあがった。
非常に重要な宣言で、日本も必ず守ることが求められている」

ぬで島次郎・東京財団研究員は、
「健康な体にメスを入れる生体移植は、医療倫理の根本に抵触する行為。
欧米では、生体移植は本来やるべきでないという� ��識が強い。
今回の宣言も、死後の提供を臓器移植の本道と位置づけ。
日本では、生体ドナーの健康状況の追跡がほとんど行われてこなかった。
臓器移植法を改正し、生体移植の続き柄制限や実施後の記録制度を
導入する必要がある」。

◇中国、フィリピンで禁止の動き


インドやパキスタン、中国などでは、事実上の臓器売買による
移植が行われてきた。
中国は昨年、臓器売買を条例で禁じ、外国人への移植を禁止。
日本人など外国人への腎臓売買が横行してきたフィリピンでも、
今年、政府が外国人への腎臓移植を全面的に禁止。
………………………………………………………………
◆イスタンブール宣言の骨子

▽臓器移植は、20世紀の医学的奇跡の一つ。
ドナー(臓器提供者)の人身売買や、貧困者から臓器を買うために
海外に赴く富裕国の患者により、臓器移植の功績が汚されてきた。

▽ドナーとレシピエント(移植を受ける患者)の安全と、
非倫理行為に関する基準と禁止を確保する透明性の高 い監視システム。

▽死体からの臓器移植を始めたり、拡大する努力は、
生体ドナーの負担を最小化するのに不可欠。

▽レシピエントに有効な治療でも、生体ドナーに危害を加えるのは
正当化されない。

▽国際組織などと協力し、臓器不足に対する包括事業を実施すべき。

▽国際基準(国際移植学会がこれまで出した勧告)に沿って、
死体や生体からの臓器摘出と移植医療を法制化し、実施すべき。

▽臓器は、国内で公平に配分されるべき。

▽各国は、臓器提供の自給自足を達成する努力をすべき。


▽臓器取引と移植ツーリズムは、公平、正義、人間の尊厳を
踏みにじるため禁止すべき。

▽死体からの臓器提供を増やすため、政府は保健医療施設などと
協力して適切な行動をとるべき。

▽生体ドナーによる提供は、高潔で栄誉あるものとみなされるべき。

▽生体ドナーへのインフォームド・コンセントでは、
心理的な影響を考慮すべき。医療と心理の両面で、短期的、長期的にケア。

▽臓器提供で生じた実費は、臓器に対する補償ではなく、
レシピエントの治療費の一部。



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